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変色系男子の日常。

人身事故のある日常

電車が止まっている。近くの駅で人身事故が起きたようだ。目の前に見えるのは固く口を閉ざした改札口と慌ただしく作業する駅員たち。僕は薬局で買ったサランラップを手に呆然と立ち尽くした。無名の誰かが駅で命を落としたことに対する思いは何も浮かんでこない。あるのは疲れ切った身体と深い諦念だけだ。

遠回りを余儀なくされた。人生には遠回りも必要だと謳う警句もあるが、そんなものクソくらえだ。ただ僕は自宅で温かな光に包まれて、疲れた身体を癒やしたいだけなのだ。しかしその求める世界はすっかり遠のいてしまった。

遠回りしたことにより、帰りがけにスーパーに寄ることができた。そこで安いツナ缶を買う。無機質な銀のツナ缶を手に取ったとき、ふと遊泳するマグロが脳裏に浮かんだ。閉ざされた改札や冷たい死体に侵されていた僕の静的な想像世界は、その瞬間に動的に変貌した。夏の太陽のように輝く銀色のマグロたちが、どこまでも続く海原をダイナミックに泳いでいる。遠回りは基本的には辛いだけだが、何かしらの意味が小さな福音として舞い降りてくることはあるんだなと思った。