まどかとまどか母 (詢子) の会話
詢子「おっ、眠れないのかい?」
まどか「友達がね。大変なの」
まどか「やってることも言ってることも、たぶん間違ってなくて」
まどか「なのに、正しいことをがんばろうとすればするほど、どんどんひどいことになっていくの」
詢子「よくあることさ」
まどか「え?」
詢子「悔しいけどね。正しいことだけ積み上げてけば、ハッピーエンドが手に入るってわけじゃない」
詢子「むしろみんながみんな、自分の正しさを信じ込んで意固地になるほどに、幸せって遠ざかってくもんだよ」
まどか「間違ってないのに、幸せになれないなんて、ひどいよ」
詢子「うん」
まどか「私、どうしたらいいんだろ」
詢子「そいつばかりは、他人が口を突っ込んでもきれいな解決はつかないね」
詢子「たとえきれいじゃない方法だとしても、解決したいかい?」
まどか「うん」
詢子「なら間違えればいいさ」
まどか「え?」
詢子「正し過ぎるその子の分まで、誰かが間違えてあげればいい」
まどか「間違える?」
詢子「ずるい嘘ついたり、怖いものから逃げ出したり。でもそれが、後になってみたら正解だったってわかることがある」
詢子「本当に他にどうしようもないほどどん詰まりになったら、いっそ、思い切って間違えちゃうのも手なんだよ」
まどか「それがその子のためになるって、わかってもらえるかな?」
詢子「わかってもらえない時もある。特にすぐにはね。言ったろ、きれいな解決じゃないって」
詢子「その子のこと諦めるか、誤解されるかどっちがマシだい?」
詢子「まどか、アンタはいい子に育った。嘘もつかないし、悪いこともしない。いつだって正しくあろうとしてがんばってる」
詢子「子どもとしてはもう合格だ」
詢子「ふぅ」
詢子「だからさ。大人になる前に、今度は間違え方もちゃんと勉強しときな」
まどか「勉強…なの?」
詢子「若いうちは怪我の治りも早い。今のうちに上手な転び方覚えといたら、後々きっと役に立つよ」
詢子「大人になっちゃうとね。どんどん間違うのが難しくなっちゃうんだ。背負ったものが増えるほど、下手を打てなくなってく」
まどか「ふぅん…」
まどか「それって、辛くない?」
詢子「大人は誰だって辛いのさ」
詢子「だから酒飲んでもいいってことになってんの」
まどか「私も早くママとお酒飲んでみたいな」
詢子「おう、さっさと大きくなっちゃいな~。辛い分だけ楽しいぞ、大人は~」